『金森朝子の庭物語』 金森朝子プロフィールへ
庭との出逢い
庭や鉢の雑草はしおらしくなり、人はおしゃれをして街を歩けるということで、たいそう過ごしやすい季節ではありませんか?
今回は自己紹介として、私と庭のなれそめをお話したいと思います。
子供の頃には、庭の片隅に千日紅やサルビアの種を播いたところ、世話もしないのに花が咲いて感激したり、食べたあとのアボカドの種を鉢に播いたら、あっというまに巨木に生長して仰天したりと愉快な経験の記憶があります。庭園なるものの存在を意識するのは、学生時代、父の赴任先のロンドンで夏休みを過ごしたことに始まりました。時間はあるがお金はないという学生の身ですから、朝握ったおにぎりを持って、ロンドンの街を、バスと足で来る日も来る日も、うろつきまわったのです。

ロンドンは、管理度ランキング上位を連続して取得しているリージェントパーク。馬道が埃っぽく、横切ると靴が汚れるハイドパーク。大英帝国が自国の貧弱な植生を補うべく、その財力にものを言わせて異国に派遣したプラントハンター達が収集した、膨大な種類の植物を展示しているキューガーデンなどなど。眺めてあきることのないシーンに恵まれています。その中で、住宅に直には接しておらず周りが道路に囲まれているため、誰でも伺い見ることができる高い柵に囲まれた庭園がありました。入り口が施錠されているこのような庭園が、ロンドンの街の中にはいくつかあるのです。おそらく、その存在にお気づきの方も多いと思います。
これらは、利用する権利を持つ人たちだけが鍵を持っている私園なのです。囲いは必ず街に調和したフェンスが用いられ、通行人や住人の視線を遮らない造りです。リージェントパークに見られるような、一年草や球根を駆使した、手間と費用のかかる凝ったボーダーなどはなく、構成は主に樹木と灌木です。しかし、花の灌木が一種一色に統一されていたり、その蔭にベンチがあったりと、溜息の出るような成熟した庭園です。庭師による管理は、たいがいは行き届いており、美しさ、居心地のよさ、なおかつ、やりすぎていない余地のバランスが絶妙なのです。

公園、庭園の「園」という漢字は、囗の囲いがあります。「園」は、植物を集約的に栽培する場所という意味です。この囲いは、いにしえの時代、栽培者が自分の作物と他人の作物とを区別するとともに、獣などから守るための機能を果たす目的で発生したのでしょうが、機能以外に、その内部に独特の空気を誕生させるという効果もあるようです。大都会ロンドンの街中、安全に囲い込まれた私園で、木陰のベンチで本を読んだり、小さな子を遊ばせたりする生活とは、どんな毎日なのでしょう。私は、遠回りとなっても、私園のある通りを選んで歩いたものです。


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