ガーデナーときどき詩人
チェリー・パイはお好きですか。甘い香りがなんとも美味しそうですが、わたしがお尋ねしているのは、香水の原料として知られるハーブ「ヘリオトロープ」のことです。ヘリオトロープの英名がチェリーパイというように、英名には、想像をかきたてるような

魅力的な表現がことかきません。
かつてわたしが園芸学校に通っていたとき、何十年も植物の世話をしている先生はこうおっしゃっていました。「植物に話しかけても意味はない。」 そう、園芸は科学なのです。それでもわたしは、植物が目覚めたようなこの時期になると、その内部で活動しているサイトカイニンやオーキシン(植物ホルモン)のことは頭の隅に追いやり、お気に入りの名前で呼びかけます。
赤い枝先についた芽がふくらみかけている
Cornus controversa‘Variegata’(フイリミズキ)の英名は、ウェディングケーキ・ツリー。葉が斑入りで、小花も白いため、夏になれば、遠目に真っ白な樹姿となります。それを見て、ウェディングケーキを最初に連想したのは、きっと幸せな方でしょう。
園芸店の店先に、もう花をつけて並んでいるブリーディング・ハート。痛む心という意味です。花はハート型ですが、いったい何に心を痛めているのでしょう。和名ではケマンソウといいますが、タイツリソウという写実的な愛称もつけられています。
ヤグルマギクは、バチェラーズ・ボタン=独身男性のボタン。ジェントルマンズ・ボタンでないのは、なにやら意味がありそうです。

チゴユリはフェアリー・ベル=妖精の鈴。大きな葉のアイビーの
Hedera colchica‘DENTATA’は、エレファンツ・イヤー=象の耳。フクシアのなかには、レディーズ・イヤードロップス、つまり貴婦人のイヤリングという素敵な名前を持っているものがあります。この命名者はきっと殿方ですね。
わたしの大好きなグラウンドカバーは、図面に記入するときは
Cerastium tomentosumですが、話しかけるときはスノー・イン・サマー(=夏の雪)です。夏に無数の星型の白花をつけます。和名はシロミミナグサですが、愛称はナツユキソウ。こちらも綺麗な発音です。
あなたの育てている植物、お気に入りの植物も、一篇の詩のような英名がついているかもしれません。